第116話・作家に歴史あり



作家デビュー当初、島田荘司氏は「バラバラの島田」、
岡嶋二人氏は「人さらいの岡嶋」と呼ばれたそうだ。

もちろん、それぞれの作品に、バラバラ殺人や、
誘拐モノが多かったからである。

こういうキャッチフレーズ的な評判は、
場合によっては作家の首を絞めることになりかねない。

たとえば折原一氏。
言わずと知れた、叙述トリックの大家である。
しかし、叙述トリックというものはそもそも、
作者が読者に対して文章自体に仕掛けた「騙し」だ。
最初から叙述トリックだとわかっていたら、
読む側も、構えて文章に接してしまう。
それなのに、折原氏の本の帯には、
「これぞ、叙述トリック!」とか、
「折原マジック(叙述トリックともはや同義語)炸裂!」とか、
身もフタも無いネタばらし文句が書かれている。
まあ、それでも読者を騙せるのだから、折原氏の騙しテクは
天才的と呼ぶほかないだろう。

* * * * * * * * *
ここに、とある2人のミステリィ作家がいる。

1人は、上清水一三六。
もう1人は、張退作。

今では大家として知られるこの2人も、
デビューしてしばらくの新人時代には、
ありがたくないキャッチフレーズのおかげで
苦しんだという過去を持っていた。

上清水の昔のキャッチフレーズ、それは
「夢オチの上清水」というものだった。
謎が謎を呼ぶ、魅力的な事件。
読者を作品世界にぐいぐいと引き込む、不可解な状況。
いったい、どういう解決が待っているのか?
それが、ほとんどラストは「夢だった」という、
読者の怒りを買いまくる作品ばかり。
それで「夢オチの上清水」という悪評を獲得したのだ。
とある作品の帯文句などは、今から思えば爆笑だ。

「こんどの夢は、どんな夢?――」

……誰も買うまい。
もちろん、当時の上清水作品はすべて絶版となっており、
本人も再発の意思がないようなので、現在は入手困難。

そしてもう1人、張退作。
彼の場合は、上清水と違って少しは真剣にトリックに
取り組んでいただけに、よけいに悲惨だった。

デビュー当時のキャッチフレーズは、
「使用人の張」
名家でおこる、遺産相続を背景とした連続殺人。
そういう横溝ばりのミステリィを得意としていた、
初期の張退作。
トリック等は考え抜かれたものが多かったのだが、
犯人の意外性を追求するあまり、毎回毎回、真犯人の
正体が執事や運転手、メイドなど使用人ばかりだった。
読むほうとしては、もう登場人物表を見ただけで、
かなり犯人が絞られてくる。
必然的に、張は作風の変更を強いられることになった。

次は張氏の、いわばハードボイルド時代。
ハードボイルドといっても、謎解きや意外性など、
ミステリィとしての骨格は本格スピリットにあふれていた。
この時代のキャッチフレーズは、
「裏切りの張」
読者を裏切るのではない。
登場人物が主人公を裏切るのだ。
物語のラスト近くになると、主人公の片腕として動いていた
パートナーや、恋人、同僚など、最も近しい人物が、
必ずといっていいほど裏切る。
そしてその多くが、事件の犯人でもあった。
読者は、もはや、主人公と一番親密な関係にある人物を
犯人と想定して読めば、予想が外れることはなかったのである。

その後も、張退作の受難は続いた。
「1人2役の張」
「性別誤認の張」
「多重人格の張」
「双子の張」
「狂言の張」
「死人が実は生きていたの張」


……。
全部、オチがバレバレのキャッチフレーズだ。

今では張退作も、長大作品作家としての地位を確立し、
最近は青薔薇かをる氏とのタッグで新機軸も見せている。

上清水一三六の活躍は言うまでも無い。

数々の苦労を乗り越えて、現在の評価を獲得した2人。
これからもファンは見守ってあげてください。
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by osarudon1 | 2004-10-08 16:41