第117話・パンダ島~上清水台風22号Remix~

*オリジナルストーリーfromパンダ島by Mr.Iceday



無人島に流れ着いた。

白い砂浜が三日月のように伸びており、足の裏には貝殻のくすぐったいような感覚が伝わった。
小さな島であったので、視察がてら一周してみた。

そしてどうやらこの島に人はいないことが分かった。

ひとりきりでここに留まって助けを待つのは恐ろしかった。

遠くで僕の帰りを待つ妻と子を想った。
日数の数え方を間違っていなければ、今頃娘の運動会があるはずだ。
新調したビデオカメラで妻は撮影の練習をすることだろう。
僕は場所取りでもして、親子リレーなんてのにも参加させられるかもしれない。
もしも僕がそこにいたなら、の話だが。
その夜は涙が止まらなかった。

…………

どのくらい時間は過ぎたのだろう。あまり気にならなくなった。
太陽と共に生き、星と共に眠る。そんな毎日だった。
そしてたまに遠く離れた妻子を思い出す。

僕はなんとなく違和感を覚えた。
白い毛が徐々に生えてきたのだ。
漂流生活の疲れだろうか、それとも精神的疲労が溜ったのか。

* * * * * * * * * *

パンダ島と呼ばれる無人島で発見された、男性とみられる白骨死体。
その骸の脇に、ボロボロになった2枚の紙片が落ちていた。
どうやら、日記帳の一部のようだ。
死んだ男性が書いたのだろうが、長年の風雨にさらされて、
かろうじてわずかな文章が読めるだけだった。

2枚の紙片も、それぞれずいぶんと状態に差があった。
損傷が著しい1枚目に比べると、2枚目はいくらかマシで、
おそらくこの2枚はかなりの間隔をおいて書かれたものだろう。

「白い毛が徐々に生えてきた」というくだりは、この男性が
晩年に書いたのではないか?
白い毛とは、すなわち白髪のことと思われる。
パンダ島に漂着してから、死亡するまでの数十年は、
何もない自然の中で、遠い妻子を思いながら暮らすだけの生活。
男性の体内に流れている時間は、文明社会のそれとは別のもの。
時間の感覚も麻痺し、自分が年老いていることすらも、
気が付かなかったのかもしれない。

ただ、ひとつだけ奇妙なことがある。
この島には果実が成る木もあるにはあるのだが、
ほとんどが毒性の強いもので、食べることはできない。
海流の関係からか、魚介類も周囲にはあまり生息しておらず、
パンダ島という名前だけあって、哺乳類もパンダしかいない島だ。

なんとか食べられそうなものといったら、笹だけなのである。
笹だけで白髪になるほど高齢まで生き続けられるものなのか?
パンダじゃあるまいし。
それとも食べていたのだろうか、哺乳類を。
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by osarudon1 | 2004-10-09 11:20