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第129話・人が死なないミステリィ

中堅推理作家の山崎彗星は、とにかく血を見るのが苦手だった。
それゆえに、彼が書くミステリィも、全く作中で人が死なない。
殺害シーンや、死体の描写など、彼の繊細な神経では至難の業。
しかし、そういう彼のポリシーを支持する読者も少なからずおり、
新作が出れば、そこそこの売れ行きを示していた。

山崎彗星がある意味、特殊な推理作家なのは、その作風にある。
人が死なないミステリィというならば、日常の謎系に数多くあり、
別に珍しくはない。
彼が独自の路線を確立できたのは、人は死なないが物語の設定が、
ガチガチの本格ミステリィであったことだ。

最新作「呉州家の悪魔」などは、その傾向が顕著にみられる作品だ。

信州に古くから伝わる豪商一族・呉州家。
その当主である呉州魯璃太が心臓麻痺で大往生したのを機に、
莫大な遺産の相続をめぐる一族内のおどろおどろしい陰謀が
鎌首をもたげてくる。
そんな不穏な空気が満ち溢れた中、呉州家に1通の殺人予告状が届く。
伝承歌「呉州の子守唄」に見立てて、一族全員を皆殺しにするというものだ。

呉州魯璃太の孫娘、魔奈子からのSOSを受け取ったのは、
私立探偵・未知引昼葉。
一族を根絶やしにしようと企む、姿が見えない悪魔と
名探偵・昼葉の息づまる戦いが始まった……。

と、いうようなあらすじなのだが……。
……。
……。
誰も死なない。殺されない。
ミステリィ小説史上最強ともいえる名探偵の未知引昼葉は、
これまで一度も被害者を出していないのだ。
超絶的推理力を発揮して、すべての事件において犯罪を未然に防ぎ、
人が殺される前に犯人を暴いてしまう。

誰が殺したのかを解き明かす小説ではない。
誰が殺そうとしているのかを暴くミステリィなのだ。

いかに叡智に長けた悪党でも、昼葉の前では赤子同然。
しかし、彼に勝つのはよく考えてみればたやすいことなのだ。
予告状や脅迫状を出さなければいい。
犯罪が起きる予兆が無ければ、昼葉の出番は訪れない。

私は山崎作品に登場するすべての犯人に次のように忠告したい。


















もったいぶらずにすぐ殺せ。
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by osarudon1 | 2004-10-30 11:35