第130話・100円ノベルス

〝冬のミステリィフェア〟と銘打った販売促進キャンペーンを、
編集者・入江が勤務する出版社で大々的に開催することになった。
その際、店頭で配布する小冊子を作ることが決定したのだが、
ありきたりのパンフレットのようなものでは、つまらない。
そこで、入江は上司に、ある提案をした。

「サンプラーを作りましょう」
「サンプラー?」
「CDなんかだと、そのレーベル所属アーティストの曲を1曲ずつ収録した、
 プロモーション用のオムニバスCDがよく作られるでしょう? あれです」
「それを小説でやろうというのか?」
「そうです。ウチで出している先生方の短編を集めたアンソロジーを、
 キャンペーン用サンプラーとして製作するんです」
「それはいいアイディアかもしれないが、そうなると印税が発生するだろう?」
「大丈夫ですよ。収録作家が上清水、張、大泉、山崎、青薔薇あたりなら、
 本を売るための宣伝用だと、私が言いくるめます。青薔薇氏の遺族の
 了承も得られると思いますよ」
「なるほど。で、そのサンプラー短編集を書店で配布するのだな」
「いえ、それについては考えがあります」
「言ってみたまえ」
「タダで配るのではなく、売るのです。しかも税込100円で。
 ワンコインで買えるノベルスにするのです」
「販売促進用なのに、それ自体を売るのか?!」
「100円でも安いもんです。もちろん、印税ゼロでも100円では製作コストを
 考えると赤字ですが、100円ノベルスということで話題にもなるでしょう。
 そうすれば宣伝効果も抜群ですから」
「まあ、無料配布パンフレットだって宣伝費で作るわけだしな」
「収録短編を読んだ読者が、他の作品も読みたくなって、各先生方の
 著作が売れ行きを伸ばせば、大成功ですよ」
「よし。その案、採用だ」

というわけで、くだんの100円ノベルスが完成し、キャンペーンに合わせて
店頭に並んだのだった。

もちろん、予想通り、売れ行きは絶好調。
それにつられて各作家陣の旧作も売れたのだから、
キャンペーンは大当たりだった。

しかし、入江にもう一つの思惑があったことは、
上司も作家も、誰一人気付いていなかった。

その思惑とは……。

「話題の100円ノベルスは、大ヒット間違いなしだ。
 そして、売れた本ほど古本市場にもたくさん流れ、
 古書店は在庫をかかえることになる。
 在庫が多い本は、必然的にバーゲンコーナーに回される。
 狙いは全国のBOOK OFFチェーンだ。
 あそこではバーゲンノベルスはすべて105円均一。
 となると、新品を100円で買える本が、古書店で105円という、
 世にも奇妙な価格逆転現象が起こるじゃないか。
 ふっふっふ。なんと、大胆な計画だろう……」

常軌を逸した作家たちと付き合っているうちに、
入江の思考もだんだんとおかしな方向へ向かっているようである。
 
[PR]
by osarudon1 | 2004-11-06 12:48