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第137話・ヒカリ



3人だか4人だか、それとも10人を超えていたか、
ほとんど記憶にないというか、どうでもいいことなので
正確な数を把握しておく必要がない程度の人間を、
わずか数十分の間にブチ殺してきた俺は、橋の上から
真っ黒なドブ川の水面を眺めつつ、自販機で買った
いちごミルクなぞを飲んだりなんかしている。
どうでもいいっつうのは、数に関する点であって、
ブチ殺すことはもちろん俺にとっては極めて重要なのだが。
いやいやいや、殺すことではないな、重要なのは。
相手が死んでしまうのは結果であって、俺の行為の目的は
包丁を人間の肉体にブッ刺すことなのだ、実は。
まあ、刺してから包丁をぐりぐりぐりぐりと回転させるので、
ほぼ例外なく相手は死んでしまうことになるのだけどまあいいや。
なぜ俺が包丁ぐりぐりなんていう行為を繰り返しているのかというと、
それをやっている間だけ、俺の頭の中をまぶしいヒカリが
照らしてくれるからだ。それも太陽光のようなものではなくて、
ミラーボールみたいにキラキラと輝く、美しいヒカリ。
そのヒカリに出会いたくて、俺は包丁男と化す。
包丁男……なんかいい響きだなあ。「スーパーに包丁男乱入」とか
新聞記事でよく見るけど。ハサミ男とかハンマー男とか、
チェーンソー男とかよりも詫び寂びがあるし。ないか。いや、あるか。
クモ男だのコウモリ男じゃ仮面ライダーだしなあ。どうでもよし。


で、ヒカリ。


包丁をぐりぐりやってる間はいいんだけど、止めるとヒカリも消える。
持続力が無いわけだよ、要するに。だから、もう大変。
ヒカリが見えていない間は、頭の中も、目の前も、俺を取り巻くセカイも、
何から何まで一から十まで徹頭徹尾、すべてが全部、AtoZ、
エヴリスィングが真っ暗闇なわけですよ。俺、暗いの嫌いなんですって。
だもんだから、包丁ぐりぐり。次から次へと殺生を繰り返すわけですな。
この俺のモノローグはなぜか活字となって文章化された形で、
みなさんにお届けしているというメタ極まりない構造なわけですが、
文体が舞城だの佐藤だの西尾だのの影響を受けているというか、
トリビュートというかリスペクトというか早い話がパクリというかですね、
いわゆるひとつのゼロ世代というんですか、彼らは?
ゼロ世代って何だ?俺は東京オリンピックの年の生まれだ馬鹿野郎。
引き合いに出すなら筒井にしろよといいたくもなったりならなかったり。


で、ヒカリ。


そんなこんなですったもんだありまして、いちごミルクも空になった。
さてこれからどうしようすっかりヒカリは消えてるしと途方に暮れる俺。
これだけ派手にやらかすと、もう誰も俺の側には近寄らないし。
包丁もブルゾンも血まみれで、まあ、半径10メートル以内には
もはやどなたもおいでになりませんてばさ。
警察も遠巻きになんだかわめいているが、近寄ってくる気配ゼロ。
日本はいいね、いきなり発砲してこないからさ。これがアメリカなら、
最初の1行で俺の人生は終わってるはずで、みなさんにもこんな
だらだらと長い文章にお付き合いいただかなくて済んだわけだね。
すみませんね悪いのは発砲しない警察ですのであしからず。
さあ周りに誰もいないと包丁も出番は無く、ヒカリも見えません。
これは困ったことになったと困っていてもいたしかたない。
その時ふと脳裏に素晴らしいアイデアが閃いた。閃いたなんていうと
ヒカリがピカッという感じがして漫画なら電球の絵か何かが付くところだ。
でも、それは光るものではなくただの妙案であってヒカリとは違う。
妙案妙案。でも、みなさんはとっくに思いついていたでしょうねぇ。
いや、当事者ほど気付かないことってあるんですよ東大モトクロス。
包丁を突き刺す相手がいなければ自分の体に刺せばいいじゃないの。
簡単なことじゃないの俺って頭悪いなあ本当に。
ぶすっ。ぐりぐり。おおおおおヒカリがヒカリが。さらに刺す。
ぶすっ。ぐりぐりぐりぐり。ヒカリだよ、これだよこれですよ。
もっとヒカリをと(C)ゲーテな言葉が思わず口から血と共に飛び出す俺。
矢継ぎ早にというかほぼノンストップで頭の中にはミラーボール。
気持ちいいなあ。美しいなあ。痛いなあ。ヒカリ。いやヒカリは痛くない。
痛いのは腹や背中や太腿や二の腕。ヒカリは気持ちいいよお。
自分ひとりだけでもヒカリを生み出すことができるんだなあ。
誰の助けも借りずにヒカリに出会うことができるんだなあ。
殺しちゃった人たちすみませんでした。俺が間違ってました。
ぶすっ。ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。ああ恍惚とはまさにこれかも。
感動のあまり涙が出てきます。「一杯のかけそば」を読んだとき以上に。
涙がいっぱい出てきます。ぶすっ。ぐりぐり。ぶすっ。ぐりぐりぐり。
ぶすっ。ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。
ぐり。
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by osarudon1 | 2005-03-10 22:04