第160話・君がすべて(再録シリーズ・1)

思うところあり、過去に他のブログで公開した創作を、
あらためて激短に再録してまとめることにした。
いや、新作が書けないから苦肉の策、ってわけじゃないですよ。
では、まず誕生日にいただいたお祝いコメントへのお礼作品から。
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ACT1

そう、君がすべて――。

2年と7か月付き合っている微乳の彼女と別れた記憶など俺には全くないのだが、いきなり彼女から「6月に結婚することになったからね、お祝いちょうだいねー」などという電話がかかってきてなんだぁそりゃぁと怒りを通り越して頭の中がすべてはFになってしまった。君は俺と付き合ってるんじゃないのかそれなのに結婚するとはどういうことですか頭の具合は確かですかと、受話器ごしに俺は言ったかもしれないが、そんなことは意に介さないのが彼女らしいといえばらしい。

たぶん俺と付き合っているはずの彼女の名前は銀子といい、ギンコじゃ蟲師だろと何度か突っ込んだこともあったが、男なのにギンコなんていう名前の蟲師の方が間違っているし、男ならせめて銀次郎だろ。でも銀次郎じゃあ、ニックネームはミナミの帝王でほぼ確定だから蟲師としてはイメージを損なうことこの上なかろうと同情の余地も無きにしも非ずと器の大きさをさりげなくアピールする俺。

で、そんな銀子が結婚する相手とは一体全体誰なのかと問い詰めると、相手はもちろん俺ではなかった。悪びれる様子もなく銀子が教えてくれた相手の正体は、駅前のでっかいビルの中にあるカルチャースクールで今どき流行っているのか流行らないのかよくわからないブレイクダンスのインストラクターなんていう肩書きを持つ、通称・ヤッチン、本名・矢部康男だというから俺は開いた口が塞がらず、口を開いていると呪いのエネルギーが逃げてしまうジュペッタ体質の俺なので、とりあえずテーブルの上にあったさくらんぼをつまんで放り込んで口を塞いだ。矢部だからヤッチンなのか康男だからヤッチンなのかは昔からマクロ市の7不思議として悩める若者をさらに悩ませているのだが、問題は名前の由来なのではなくヤッチンが小中高を通じて俺の親友だったことなのだ。

付き合ってる彼女を親友に盗られるなんざ、陳腐といえば陳腐だがスキャンダルとしてはまあとりあえずおいしすぎるネタだ。それはちょっとひどすぎるんじゃないのか、ということは当事者の俺だけでなく世間一般でも共有される感覚だと思うのだが。その極悪非道ぶりたるや、消費税を5%から90%に引き上げるだとか、天然痘復活キャンペーンを24時間テレビで大々的に展開するとか、野球中継延長のため「W杯・日本VSブラジル」の放送は休止いたしますだとか、そのくらい良識ある人々の感情を逆撫でする行為じゃないでしょうかね、ええ。

そんなわけで、このまますんなり銀子とヤッチンを結婚させてなるものか、と一念発起した俺に賛同していただける方は挙手をお願いします。おお、満場一致ですね。それでは俺、これから奴らの結婚式場へ乗り込みたいと思います。


ACT2

そう、君がすべて――。

電車3本とバス2本を乗り継いで、やっとたどり着いた海辺の高台にある蔦の絡まるチャペルでは、どうやら銀子とヤッチンの結婚式が始まっているようだった。遅刻してもそれを叱る学年主任だの風紀委員だのがいないのは学校よりチャペルのほうがいくらかマシってことかも知れないが、いや、間違いなくマシなのだが、そもそも俺は「お祝いちょうだい」と言われた割には結婚式の招待状を貰っていないのだから遅刻しようが欠席しようが誰にも咎められる筋合いはないわけだった。

招待状を貰っていないということは残念ながら引出物も貰えないわけで、かといって引出物が紅白まんじゅうだったり、音撃鼓まんじゅうだったり、毒まんじゅうだったりすると、甘いものが苦手な俺としては帰りに駅のゴミ箱に捨てていくだけの荷物になってしまうので、迷惑なだけだ。まんじゅうなんか、誰が食うか馬鹿。まんじゅうと散弾銃、ガムとボム、アメとムチ、プリンとサリン、いずれも後者を選ぶね俺は。

呼ばれてないので中には入らず、とりあえず式が終わるまでは体育館の裏で待つ先輩よろしく咥え煙草でフェンスにもたれて曇り空を見上げていたりする。ま、これが映画『卒業』だったりすると、ダスティン・ホフマン気分で式場にズカズカズカと踏み込んでいって、花嫁をなりふりかまわず抱きしめて、それでもって新郎から強奪し、逃げ去ったりするんだけどね。うろ覚えのテキトーな英語の歌詞で『ミセス・ロビンソン』かなんかを鼻歌で歌いながらね。

現実は違いますって。俺はダスティン・ホフマンじゃねぇっつうの。花嫁を攫いに来たんじゃねぇっつうの。もうこれで銀子に逢うのは最後だからね。明日からは二度と逢えない。夢でも逢えない。いや、逢いたくもないんだけど別に。要するにきっちりと銀子にお別れするために来たのだ。

さて、そうこうしているうちにチャペルの入り口のあたりが騒がしくなってきた。どうやら式が終わって、新郎新婦が出ていらっしゃるようですぜ兄貴。兄貴って誰だ。俺は一人っ子だし誰かの舎弟でもない。とにもかくにもいよいよショーの始まりですぜ旦那。そうか、旦那なら違和感がないのだな。



ACT3

そう、君がすべて――。

おうおうおう、出てきた出てきたぞろぞろと。これからアレだな、花嫁が後ろ向きにブーケを放り投げて、それを取った奴が次に幸せを掴むとかなんとかいうイベントだな。玄関前に参列者がみんな集まってるよ。これは千載一遇のチャンス! はい、さっそく始めましょう。

とりあえずひとかたまりになっている親族らしき集団に向かって、ブーケならぬ手榴弾をポーンと投げてみる。ボンッ。おー、たいした破壊力はないかと思ったが、爆竹よりはインパクトあるねぇ。腕とか足とか、生首とかあとなんだかよくわからない内臓みたいなのが、真っ赤な飛沫を上げながら周囲にぶちまけられる。みなさん、何が起こったのか瞬時には理解しかねるご様子で、なにやら右往左往。うおうさおう、ってウオーガオーに似ているなあ。いや、それはともかく、手榴弾はもう1発用意してあるから、すかさず新婦の友人一同とおぼしき若いねえちゃんたちの一団にポーン。ボンッ。げひゃひゃひゃ。面白いように逝ってくれますなあ。もうこれで集まってる連中の数は半分くらいに減った感じだぞ。でもね、どうでもいいの、君らは。ザクとは違うのだよ。ザクとは。ザクじゃなくて、ザコなの、君らは。ザコ。漢字で書くと雑魚。木っ端微塵になろうが静かに余生を送ろうが、大勢に影響はないその他大勢なんだから。本命はなんてったって銀子よ、銀子。まあ、ヤッチンも行きがけの駄賃でやっちゃうけどね。

そう、君がすべて――。

まずは、ヤッチン。銀子を守るでもなくドアの陰に逃げ込んで震えてやがる。けけけ。お前ごときに武器なぞ使うものか。ザコ以下のヤッチン。いくぜ、ヤッチン、肉弾勝負だ。俺は地面を力強く蹴ってジャンプ!そんでもって、頭かかえて蹲るヤッチンに向かって寸止めムーンサルト! って、おい、そんな重力の法則を無視したような技が出せるわけねぇだろ。だいたい、俺はフルコンタクト至上主義。寸止めなんてキーワードは脳内にねぇんだよ。大山センセー見てますかー?

そう、君がすべて――。

ぐえ、だか、ぐお、だか、そんな変な声を発して動かなくなったヤッチン。弱すぎる。やっぱ、ザコ以下。おいおい、腹を上にして気絶とは無防備というか情けないなあ、ヤッチン。なんか可哀想になってきたから、最期ぐらいは道具を使って成仏させてあげようじゃないか。さっきチャペルの門から飾りの十字架を失敬してきたんで、これを使ってあげましょう。グサッ。うーん。ユルい感触。もっと筋肉つけろよ、ヤッチン。まあ、この刺し傷を見て、名探偵・山本カツオあたりは「凶器は刃渡り30cmのキツツキの嘴だっ!」とか言うんだろうな。でも、それ正解。名探偵が口にすることは、真実と違ってもすべて正解! それが本格ミステリィの真髄というものですぜ兄貴。だから俺に兄貴はいないって。

そう、君がすべて――。

さあさあ、いよいよ本命、銀子ちゃんの出番となりましたよ。俺は銀子に近付き、その首に手をかける。あれ、何? なんか言ってるよ、この女。なになに?「わたし、はじめてなの」何が?「……はじめてなの。殺されるのって」。おお、この馬鹿女、生まれて初めて気の利いたジョークを言ったよ。偉い。凄い。ちょっと、惚れなおしちゃったかもしれない。よし、そのジョークに免じて、ここで首を絞めるのは止めてあげようじゃないか。一緒にしばらくドライブだ。

そう、君がすべて――。

俺は、ウエディングドレス姿の銀子をよっこらしょと抱え上げた。スレンダーで小柄な割には案外重いね銀子ちゃん。俺は重い銀子を抱えて、駐車場へと向かう。そこには新郎新婦がハネムーンへ出かけるための車が用意されているのだ。もちろん、後ろに空き缶がいっぱい結びつけてあるやつだよ。

そう、君がすべて――。

また、銀子が何やらボソボソと喋っている。耳をすますとどうやら「こんな事になったのは私のせいではありませんw」と言っているようだ。最後の「w」ってのがどうにもこうにもアレだが、それよりなにより銀子、私のせいではない、ってのはちょっといやかなりいや完璧に間違ってるよ。ヤッチンも死んだんだよ。式の参列者も半分以上が木っ端微塵だよ。いまや、チャペルは地獄絵図だよ。それなのに私のせいではないとは笑止千万、片腹痛いわ。

そう、君がすべて――。





君がすべて。







君がすべて悪いんだ

何から何まで一から十まで最初から最後までAtoZ、全部、みんな、いっさいがっさい、エヴリシング、オール君のせい。君の責任。君が原因。俺はこれっぽっちも悪くない。

君がすべて悪いんだよ、銀子。

だから、やっぱり死ね。

俺は腹に巻いてあったロープを銀子の首に巻きつけ、両端を握って力の限りに引き絞る。

白目を剥き、額に青筋を何本も浮かび上がらせ、だらりと長い舌を出し、涙だか鼻水だかよだれだかでベトベトになった銀子の顔は、ちょっと芸能人には例えようのない、例えたら失礼極まりないほど醜い。あー、醜い。醜悪だねぇ、こいつは。こんな女のどこに惚れていたのかねぇ、俺は。馬鹿じゃないの?、俺って。

とはいえ、一度決めたら計画は最後までキチンとやりとげないと社会人として失格ですよ。だから俺は予定通り、銀子とハネムーンへ。銀子の首に巻きついたロープをそのまま車の後ろに結びつける。無数の空き缶に、ひとつでっかいのが加わったと思えばどうということはない。

俺は運転席に乗り込んで、イグニションを回す。なぜキーが挿しっぱなしになっているかなんていうのは「神のおぼしめし」ですべて解決する他愛のない謎だ。

アクセルを踏み込み、ハネムーンに出発。
最初はさすがに銀子の体が重くて車もいっぱいいっぱいの走りだったが、途中で銀子の首がちぎれたらしく、ある瞬間からフッと車が軽くなった。やれやれだよまったく。

とりあえず車じゃハネムーンといったって、ハワイやオーストラリアやヨーロッパや清香島へいくのはちょっとアレなので、銀子と最初にデートした千葉方面の海を目指すことにしよう。大きな橋を渡って川の向こう、埠頭、そして犬吠埼へ。そういえば灯台をバックに撮った写真があったなあ。あの写真、俺んちにないから銀子が持ってるのかなあ。犬吠埼に着いたら、また同じ構図で写真撮ろうかな。今度は銀子、首だけしかないけど。

まあ、どこまで行けるのか、行けるとこまで行くのみだ。ガソリンがヤバくなってきたら、適当なGSに寄ってこう言うのさ。「レギュラー、満タンで!」ってね。



ACT4

話はこれでオシマイだ。
でもね、ミステリィなら(おい、これだって立派なミステリィですぜ兄貴)やっぱり最後にはどんでん返しが必要だよね。それまでの展開が一気に逆転するような、そう、オセロゲームで黒が瞬時に白に変わるような、ね。

それに、こんな後味の悪い話、みんな嫌いでしょ。
嫌いだよねぇ。俺だって嫌いだもん。

だから、ここからが本当のエピローグ。

実は、ぜーんぶ、今までのことは俺の妄想。俺が見たマボロシ。
いってみりゃ「夢オチ」ってやつ?

安心してくださいよ、みなさん。

今頃、銀子はヤッチンとチャペルで、幸せに将来を誓っている真っ最中ですよ。

いやあ、お二人には幸せになっていただきたい。

心から願う俺なのでした。

で、俺はというと、もちろん式には招待されていないので、
出席するわけにもいかず、自分の家にいます。

窓辺にロープを吊るして、
そこに顔を入れて、ユラユラと風に揺れています。

薄れていく意識の中で見たのが、走馬灯なんかじゃなくて、
むごたらしい殺戮シーンの幻影なんて、俺も最期まで趣味が悪いね。
彼女にも親友にもアイソを尽かされるはずだよ、ホントに。

銀子、ヤッチン、お幸せに!

二人の未来に幸あれ!




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by osarudon1 | 2005-09-09 16:01