第171話・兵隊さんの喇叭

「ん~ん、この主人公が意を決して、犯人一味のアジトに
 乗り込んでいこうとするシーン。ここで、何かひとつ、
 景気のいい音が欲しいな」

俺の原作・脚本・演出・監督・主演で製作中の
ハードボイルド映画『そして夜明けがやってくる』は、
撮影をすべて終え、編集作業の真っ最中だった。

アフレコも一通り済んだのだが、まだ画面の中に本当のリアリティが足りない。
演出の仕上げとなるのが、映像を引き立てる音楽だ。

すぐれた映画には、かならずすぐれたサウンドトラックが付随する。
『第三の男』『太陽がいっぱい』『劇場版サクラ大戦』……と
挙げればキリがないほど、テーマ曲がスタンダード化している作品は多い。

俺が手掛けた『そして夜明けがやってくる』にも、一流の音楽が必要だ。
タイトルバックやエンディングのクレジットロールで流れるメーンの曲は完成している。あとは、場面ごとのBGM。

ストーリーの中でも特に観客の心をふるわせるであろう主人公の出陣シーン。
ここに俺が欲しいのは、戦う者を鼓舞させるような音だった。

音楽を担当している伏見という男に、俺はリクエストを出した。
俺がイメージしたのは「起床ラッパ」だ。
しかし、その時には「起床ラッパ」という言葉が浮かばなかったため、
伏見には「あれだよ、ほら、兵隊さんのラッパ。あんな感じの曲を用意してほしい」と、伝えたのだった。

歩く音楽ライブラリーと異名をとる伏見は仕事が早く、
いつもこちらの希望に沿った楽曲を短時間で見つけ出してくれる。
今回も、あっというまに曲が入ったMDを持ってきた。

「えー、たぶん、この曲が監督のイメージにピッタリだと思うんですが……」

伏見はMDウォークマンのヘッドフォンを俺に差出し、再生ボタンを押した。
ヘッドフォンを装着すると、すぐにリズミカルなサウンドが聴こえてきた。


♪HEY YO! あのコの靴下こっそり盗んで匂いを嗅ぐのが極楽タ~イム
 そのあと煮出してエキスを集めてハチミツみたいにチェキラッチョー~♪

「どうです?バッチリでしょう?」

「……なんだ、これは?」

「これのどこが兵隊さんのラッパなんだ?」

「そのものズバリじゃないですか」

「これは変態さんのラップだろっ!」

「こりゃまた失礼いたしました、っと」
 
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by osarudon1 | 2005-09-10 12:38