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第2話・断崖にて

この1本を吸い終わったら、ロクでもない世界とオサラバすることにしよう。
たかだか50年程度の短い人生だったが、記憶にあるのは屈辱と苦悩に満ちた出来事ばかりだ。
殺したいほど憎んできたあの男は、俺に復讐の機会すら与えずにポックリと逝っちまった。
煙を肺の奥まで深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
眼下には、荒波が岩にぶつかり砕け散る真冬の日本海。
ちょっとだけ前に足を踏み出せば、それでジ・エンドだ。
長年愛してきたセブンスター。もうフィルター近くまで短くなってしまった。
……、そんなにあせることもない。もう1本、
この世の名残に火をつけようか。
このまま、夜明けまで待って、
朝日を眺めながら最後の時を迎えるのもいい。
もう1本、また1本。
やがて、セブンスターのパッケージは空になった。
ついに最後の1本まで吸ってしまったか……。
そういえば、さっき車を乗り捨てた道路の脇に
タバコの自販機があったな……。
俺はポケットの小銭を確認し、断崖に背を向けた。
自殺するのは簡単だが、禁煙はかくも難しい。
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by osarudon1 | 2004-05-07 20:29