第13話・遺書

もう駄目です。スランプから抜け出せません。
いえ、スランプというよりも、アイデアが枯渇しました。
数年前までは、湯水のように湧いてきたトリックも、
もはや全く思いつくことができません。
推理小説を書くことを生業としてきた私ですが、
もともと才能なんてなかったのです。
とはいえ、文筆以外に私が出来ることなど、
何ひとつありません。
筆を断つことと、命を絶つことは、
私にとって同じです。
関係者のみなさま、これまで大変お世話になりました。
そして、私の身勝手な決断により、ご迷惑をおかけすることを
お詫び申し上げます。
さようなら


こうして、1人の男がビルの屋上から飛び降りた。


しかし、推理小説ファンも、出版社の編集者の中にも、
彼の死を悼む者はいなかった。それ以前に、
かつては超絶的なトリックを次々と生み出した才能の死に、
気付いた者すら皆無だったのだ。
いや、皆無というのは間違いかもしれない。
たった1人だけ、彼がいなくなったことで悲嘆に暮れ、
パニック状態に陥った人物がいる。
それは、デビュー以来、すべての作品を手掛けてきた
大事なゴーストライターを失ってしまった、
流行作家の龍華寺和実だった。
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by osarudon1 | 2004-05-21 16:05