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第15話・アンタッチャブルマン

小学生時代、彼は陰湿なイジメに遭っていた。
うっかりと学校のトイレで大きい方の用を足してしまい、
それが発覚すると同時に、クラスメート達は
「えんがちょ、えんがちょ」とはやしたて、
汚いからという理不尽な理由で、決して
彼に触れようとせず、常に1メートル以上の距離を
おくようになってしまったのだった。
まあ、どこにでもありそうなイジメではあるが、
まだ小学生の彼はいたく傷ついた。
(ちくしょう。ちくしょう。オトナになったら、
絶対にあいつらを見返してやる!)
彼は心に固く誓った。

それから、彼の猛烈なトレーニングが始まった。
強靭な肉体を作り上げること、それがまず第一歩だ。
毎日、一日も欠かさず続けた猛特訓の成果が出て、
中学生、そして高校生になるころには、
格好ばかりのチンピラ不良学生ならば、
彼の目の前に立っただけで震え上がるような、
たくましい男に成長していた。
もちろん、ケンカも負けることなど決してない。
地元では知らない者がいないほど、
彼は数多くの武勇伝を残していた。

そして、今。
彼は最強の男として、
土俵へと向かう花道を歩いている。
横綱・張手山。
あのイジメられっ子は、日本の角界を背負う力士となった。
花道を進む彼のたくましい肉体。その肩や背中を、
ファンがペタペタと触りまくる。
大相撲ではおなじみの光景だが、
張手山にとっては大きな意味があった。
(誰も触れようとはしなかった、えんがちょな俺を、
みんなが笑顔で触ってくる。俺はやったぞ!)
向かうところ敵無しの大横綱が、
力士を志した理由など、本人以外、誰も知らない。
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by osarudon1 | 2004-05-25 19:19