第17話・MOON STRUCK ONE

昔から「ぼんやりさん」のあだ名で呼ばれていたくらい、
彼はいつもボケーっとしている。
心、ここに在らず。
かといって、何か考え込んでいるわけでもない。
空を流れる雲の動きを目で追うとか、
行き交う車や人の波を、ただただ眺めているだけだ。

そんな彼が、殺人事件の唯一の目撃者だというのだから、
お話にならない。
現場から急ぎ足で立ち去る人物の姿を、
見かけたことは見かけたのだが、当然のごとく、
その特徴など何も覚えてはいない。
男なのか女なのかさえ、認識していないのだ。

もしかすると、殺人事件の被害者が
彼自身だということも、自分ではまだ気付いていないのかもしれない。
薄れゆく意識の中で、彼が最後に見たものは犯人の背中のはずなのに。
いったい、彼の目には何が映っていたのだろうか。
困ったなあ、ぼんやりさん。
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by osarudon1 | 2004-05-27 16:54