第19話・オレだよ、オレ

電話が鳴った。
「はい、池上ですが」
「あ、じいちゃんか。オレだよ、オレ。元気にしてる?」
「オレって、どちら様ですかの?」
「いやだな、じいちゃん。自分の孫を忘れちゃったのか」
「もしかして、ヒロキか?」
「そうそう。ヒロキだよ」
「久しぶりじゃないか、何の用じゃ?」
「ああ、実はバイト先のパソコンを、ちょっとしたミスから
 壊しちゃってさ。修理代を負担しなきゃならないんだ」
「そりゃ、大変じゃの」
「でさ、……言いにくいんだけど、30万円ばかり貸して
 もらえないかなあ? 今、オレ貯金ゼロなんだ」
「そうかい。事情はわかった」
「じゃあ、貸してくれるんだね!? 助かるよ、必ず返すから」
「誰が貸すと言った?」
「え?」
「年寄りだと思ってなめるんじゃない! 貴様、最近流行りの
 オレオレ詐欺じゃろ!」
「な、なに言ってんだよじいちゃん!」
「孫のヒロキは、4年前にバイク事故で死んでしまったわい!
 何がヒロキじゃ、このニセモノめが! わしが騙されるとでも
 思ったか!」
「ちょ、ちょっと待……」
老人は叩きつけるように受話器を置いた。

「まったく今の若い者ときたら……。わしは、まだそんなに
 惚けとらんわい」

そこへ、長年連れ添った老妻がやってきた。
「おじいさん、今の電話はどなたからでした?」
「ああ、オレオレ詐欺とかいうやつじゃ。お前もニュースで
 聞いたことがあるじゃろ。どこぞの馬の骨が、ヒロキの名を
 騙って金の無心をしようとしたようじゃ」
「あらまあ」
「ヒロキは事故で死んだと言ったら、あわてておったわい」
「おじいさん、ヒロキは生きてますよ。死んだのは、ヒロキの
従兄弟のマサタカでしょうが」
「あれ? そうじゃったかのう……」
「しっかりしてくださいな」
「ところで夕飯は、まだかい?」
「さっき食べたばかりじゃないですか、もう」
「あれ? そうじゃったかのう……」
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by osarudon1 | 2004-05-29 08:44