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第30話・見えない追跡者

さっきから、ずっと何者かの視線を感じている。
どうやら、尾行されているようだ。
駅から自宅までは、歩いて5分ほどの距離だったが、
商店街を抜け、人通りの少ない住宅街に入ってからは、
1メートルが100メートルにも思われた。
間違いない。
誰かが私の後方を、足音をたてないように歩いている。
振り向きたい衝動に駆られたが、
それはかえって危険かもしれない。
ここはダッシュして、一秒でも早く家のドアまで
たどり着くべきだろう。
そう決心すると、私は全速力で走り出した。
すると、後方から走る足音が。
それまでは静かに尾行していた追跡者も、
姿をひそめるのをあきらめたようだ。
「待ちやがれ! てめえ、ぶっ殺してやる!」
やはり、私は狙われていた。
身に覚えは無いが、私の命を奪おうとする敵が
知らないうちに存在していたのか。
「待てぇ!」
待ったら殺すのだろう。待つものか。
私は走った。
「待て……うわーっ!」
なんだ、今の悲鳴は?
思わず私は立ち止まってしまい、後ろを振り返った。
すると、包丁を右手に持った男が、
左手で顔面を掻き毟っている。
「うわっ、ち、ちくしょう!なんだ、こりゃあ!」
よく見ると、男の顔中に、白い液体がベットリと付いている。
電柱の上から「カアーッ」という泣き声が聞こえた。
カラスだ。
男の顔面を、カラスの糞が直撃したのだ。
「ちくしょうっ!目に入りやがった。見えねえっ!何も見えねえっ!」

私は無事、家にたどり着き、警察に通報した。
どうやらカラスの目潰しに命を救われたようだ。
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by osarudon1 | 2004-06-12 09:36