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第36話・HIPHOP的手法のミステリィ的展開

またしても、スランプに悩んでいるミステリィ作家・上清水一三六。
1作あたりの売れ行きがどんどん落ちてきており、
これまでのように年間2~3作の出版ではろくな収入にならない。
つまり、作品を量産しなければ、
食べていくにも困る状況というわけだ。
とはいえ、もともと遅筆なだけに、月1作以上のペースで
新作を執筆することなど不可能に等しい。

そこで、上清水が考え付いたのが、楽をして量産する方法だ。
ヒップホップやラップなど、音楽の世界では
すっかり定着した手法・サンプリング。
過去のさまざまな音源から、おいしいフレーズをいただいて、
それを構築して新たな作品に仕立て上げる。
この方法を、小説にも導入したらどうか、と考えたのだ。
既製の文章を継ぎはぎして、自分の作品にしてしまう。
これなら、スランプ状態だとしても、
いくらでも新作が作れるではないか。
月イチどころか、毎月新作を発表できるぞ。
そうすれば、1冊あたりはあまり売れなくても、
十分に収入は確保できる。

さっそく彼は、製作に取り掛かった。
「国境の長いトンネルを……」

大事なことを忘れていた。
最近は、サンプリング音源にも著作権の問題は厳しく、
印税のいくらかは元ネタのアーティストに支払わなければならない。
もちろん、上清水にそんな気はサラサラない。
しかし、どこからパクったのか、わからないようなフレーズを使えば、
元ネタ作者本人にも気付かれないだろう。

「その日は朝から雨だった」
いいぞ。どの小説から持ってきたか、誰もわかるまい。
「殺人者は、大きく息を吸い込んだ」
これで元ネタを指摘できたら、天才だ。

話のツジツマが合うように、他人の文章を継ぎはぎするという行為は、
実際のところ、かなりのテクニックを要する。
しかし、そこは上清水一三六。
間違った方向に情熱を注ぐことにかけては、右に出る者がいない。

ついに、彼は全編サンプリングという、
小説史上画期的な長編ミステリィを完成させることができた。
…………5年かかった。
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by osarudon1 | 2004-06-22 17:55