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第39話・プロの仕事

その部屋には、芸術的ともいえる
殺され方をした死体があった。

まさしく、プロの仕事に違いない。

本来なら、絶対に侵入できるはずがなかった部屋。
鍵を壊さずに、犯人はドアを開けている。

まさしく、プロの仕事に違いない。

現場に残された犯行声明文。
流麗な筆遣い。
そして国語の教科書に載せたいほどの美文。

まさしく、プロの仕事に違いない。

被害者が死ぬ直前に食べていたと思われるスパゲティ。
茹で加減はもちろんアルデンテ。
松の実がからんだバジルソースのジェノベーゼ。

まさしく、プロの仕事に違いない。

部屋にあったCDラジカセから流れる音楽。
バカラック並みのコード進行と、フックの聴いたホーンアレンジ。

まさしく、プロの仕事に違いない。

黙々と、そして的確に指紋採取に励む鑑識員。
死体の状況から、即座に死亡時刻を割り出した検視官。
現場を見るなり、犯人像をプロファイリングした捜査官。

誰もが、プロの仕事を貫いている。

ありとあらゆるプロの仕事であふれる殺人現場。
美しい。プロの仕事とは、実に美しいものだ。

しかし、たった1つだけ例外があった。
テーブルの上に置かれた、1冊の新書本。
某メフィスト賞作家の最新作である。
これだけは、どう贔屓目にみても、
プロの仕事とは言い難い。

完璧なまでに美しいプロの殺人現場を、
1冊の本が台無しにしてしまったのだった。
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by osarudon1 | 2004-06-23 20:14