第211話・人気のバロメータ、そしてキャラ萌え

上清水一三六、苦悶す

「そうか、私は、やっぱり人気作家なのだなあ」

上清水が突然、寝惚けたことを言い出した。

「いや、人気とはあまり関係ないのでは?」

「いや激短くん、さっき君から聞かされた話で、
 私は自分の文壇における地位を確信したよ。
 担当の入江くんなどは、どうも私のことを
 甘く見ているふしがあるのだが、いかんなあ」

「入江は極めて優秀な編集者だと思うけどね」

「そうかい? まあそれはさておき、私の人気の
 話なんだが」

この男、俺がついうっかり口をすべらした話題で、
ずいぶんと舞い上がってしまっているようだ。

「さっきの話なら、あんなのただの目安だよ」

「そんなことはない。数字は常に真実を示している」

その話とは、こうだ。

俺のブログのネームカードを見てもらえばわかるが、
そこではいくつかのフォーラムに参加している。
もちろん、作家のフォーラムにもだ。

で、そのフォーラム参加者のアクセスランキング。

俺の『激短ミステリィ』は上遠野浩平と清涼院流水の
フォーラムではアクセス数が1位だったのだ。
自分のブログのアクセス数は分かっているので、
正直、こんなに訪問者が少ない弱小ブログが1位とは、
喜ぶどころか、エキブロの行く末が心配なほどだが。

ところが、同じ作家のフォーラムでも、上清水一三六の
フォーラムではいまだかつて1位どころか、2位にさえ
ランクされたことがないのである。

この事実を、上清水は無闇にポジティブに受け止めた。

「上遠野や清涼院のフォーラムで1位の君が、私の
 ところではたいしたことがない。ということは、
 すなわち……わかるよね? 君は島田荘司くんや、
 森博嗣くんのフォーラムでも順位は低いのだろ?」

「まあ、確かに」

「少なくとも私は、島田・森クラスと同等の人気があり、
 上遠野・清涼院よりは上、ということじゃないか。
 しかも、私のフォーラム参加者数は、清涼院のそれより
 多いのだよ? 上遠野や清涼院といえば、現代で最も
 重要な文学的革命児ではないか。その彼らより上とは、
 私も自分で自分の存在が恐ろしく感じるくらいだよ」

やはり、寝惚けたことを言っている。
まあ、このポジティブさが彼の持ち味でもあるのだが。

「そもそも、上遠野は『上』の1文字、清涼院流水は
 最初の『清』と最後の『水』を、私の名字から取ったのだ」

そんな話は初耳だ。

「彼らはこの上清水一三六の申し子とでも言うべきかな」

さらに寝惚けたことを言い出した。

「上清水、だが、彼らには君にはない強みがある」

「ん? なんだね?」

「両者とも、キャラクター造りの天才だ。この2人に
 西尾維新を加えれば、現代キャラ創造主の御三家だ」

「石尾鰊が?」

「ボケなくて結構。だが、君にはキャラ造りの才能がない」

「ギクっ」

「出版形態のアイディアに関しては、確かにそれなりだ。
 だが、魅力的な登場人物を全くといっていいほど、
 作中に登場させることができないじゃないか」

「ギクっ」

「今や、キャラ萌え全盛時代だぞ? 本を売ろうと思ったら、
 くだらん奇策に走らずに、キャラクターで勝負しろよ」

「……だって、苦手だもん」

「……入江に手伝ってもらえ。編集者がキャラ造形の
 アドバイスをするってのは、よくある話だぞ」

「ああ、入江は駄目だ、駄目。一度相談したことがあるが、
 入江が出してきたキャラはアニメのパクリみたいなのばっか」

「しょうがねえな。じゃあ最後の手段だ。読者から公募しろ。
 『あなたの考えたキャラクターが小説の主役になります』とか
 なんとか言って」

「おお、それはナイスな案! 採用された人には寿司をおごるぞ」

この男は寿司で万物を操れると思っているようだ。

「で、本が売れたら印税は私のもの、と。いいねえ。なんとも
 素晴らしい計画じゃないか、激短くん。成功したら、君にも
 寿司をご馳走しよう」

やはり、寿司か。

~THE END~
[PR]
by osarudon1 | 2007-02-15 13:37