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第42話・夢の5.1chサラウンド

音楽的手法を活字の小説に取り入れるべく、
狂気のチャレンジを繰り返す、上清水一三六。
彼の脳裏に浮かんだ次なるアイディアは、
5.1chサラウンド小説だった。

作品の朗読を収録した、オーディオブックなるCDがある。
それならば、もちろん可能な技術だ。
しかし上清水は、あくまで活字印刷媒体での表現にこだわった。

常識的に考えれば、不可能である。
とはいえ、不可能を可能にする男・上清水は、
なんと編集者および製本担当者を泣かせた上で、
その不可能を現実のものにしてしまったのだ。

出版物によるサラウンドとはいかなるものなのか?

彼が着目したのは、コミック雑誌などの巻頭に綴じ込んである、
付録のピンナップだった。
雑誌の版型よりも、数倍大きなピンナップは、
幾重にも折り込まれた形で製本されている。

この手法を応用して、普通なら見開きで2ページの本を、
5ページになるように製本した。
通常の2ページ分が、小説本編。
残りの3ページは、2枚の挿絵と、
脚注に充てられていた。

読者は屏風のように5つのページを広げて読むことで、
物語が自分を取り囲むような、新しい読書の喜びを
体感できるというわけである。

しかし、これだけではまだ5ch。
上清水は5.1chであることに固執した。

そこで用意された残る0.1chが、
全ページに挟み込まれた、膨大な数の「しおり」だ。

オーディオにおける0.1chは、低音を強調する役目の
サブウーファースピーカー。
それに倣って、「しおり」には
「ズゴゴゴゴ」という地響きや、
「ブロロロロ」という車のエンジン音、
「グルルルル」という獰猛な犬の唸り声など、
低音を表す擬音が、1枚1枚に書かれていた。

とりあえず完成を見た、超特殊製本のハードカバー本。
この作品の売れ行きよりも、上清水が心配していたのは
文庫化の際にどうするか、ということだった。
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by osarudon1 | 2004-06-24 21:58