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第57話・張井呆太とアズマンガの同人



魔法探偵・張井の元には、奇妙な調査依頼ばかりが殺到する。
今回の仕事もその一つ。
依頼人は「あずまんが大王」の同人誌を主催している男だった。

「ちよちゃんのお父さんのフルネームを調べてください!」

それが依頼内容だ。
これまでいくつかの探偵社に調査を依頼しようとしたが、
すべて門前払いだったらしい。あたりまえだ。
普通の探偵では解決できない謎こそ、
魔法探偵の出番なのだ。

「しかし、作者のあずまきよひこ氏も、ちよ父のフルネームなんて
 設定していなかったのではないでしょうか? ちよちゃんの
 名字は〝美浜〟だから、お父さんもおそらく同じでしょうが、
 下の名前までは……」
「それはそうかもしれません。でも、僕は気になってしまい、
 眠れない夜が続いているんです」
「元々設定の無い名前を調べ上げるなんて、無から金を精製するような
 ものですよ。いわば錬金術です」
「張井さん、そこをなんとかお願いします!」
「わかりました。私の知り合いの魔法使いに、チベットで修行をした
 怪僧・錆芯坊という僧侶がいます。彼に相談してみましょう」

数日後。

「どうでした、張井さん?」
「喜んでください。さすがは錆芯坊上人、ちよ父のフルネームを
 卓越した錬金術で生み出しました。彼は過去にも数々の名前を
 この世に出現させてきたのですから、今回も簡単でした」
「……それは、単にお寺の坊さんに赤ちゃんの命名をお願いする
 人が多いというだけなのでは? 錬金術師じゃなくて、
 姓名判断士じゃないですか」
「何をおっしゃる! 赤ちゃんの命名も、その後の人生すら左右
 する〝名前〟というものを無から生み出す錬金術なのです!」
「まあ、いいですけど。で、その名前とは?」
「美浜又吉です」
「ま、またきち?」
「そうです。錆芯坊上人は、ちよ父のポートレートを、ひと目
 見るなり、こうおっしゃいました。『これは猫じゃな。しかも
 人をなめきった御面相じゃ。なめ猫といえば、名前は又吉と、
 80年代から決まっておるわい』と」
「なんという説得力! あずま先生も、無意識下ではちよ父を
 美浜又吉と呼んでいたに違いありません」
「決まりですね」
「ありがとうございました! これでぐっすり眠れそうです」

依頼人が満足げに帰っていった後、張井はインターネットの
ある姓名判断サイトで「美浜又吉」を鑑定してみた。
その結果、
家庭運:財源作りが上手。良い子供に恵まれる。
外からの印象:人を見る目は辛辣で思い切った発言をする。
性格や人柄:衝動的に行動してみたり、偏屈で強情だったりする。

……当たっているじゃないか。ちよ父そのものだ。
恐るべし、怪僧・錆芯坊。
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by osarudon1 | 2004-07-10 09:36