第62話・上清水一三六の無謀な挑戦

上清水先生、やらかしちゃいました。
例によって、内容の乏しさを珍奇な手法でカバーするという、バカ小説。
こともあろうに、「トラバボケ選手権」に参戦してやがります。
彼の企みを徒労に終わらせるため、
用意したという4つのオチ(シークレット含む)を、
全部ここで晒しちゃいましょう。

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みなさん、お元気ですか。
私、活字界の最前衛作家・上清水一三六と申します。
「激短ミステリィ」なる胡散臭いブログで、
私に関するエピソードが面白おかしく取り上げられていますが、
今回初めて、私自ら「トラバボケ」に参加させていただくことになりました。
ちなみに「激短」の作者は、私に遠慮してか、今回は棄権するらしいです。

さて、今回の参加に当たって、私はまたしても活字文学の可能性を広げる、
画期的な手法を考案いたしました。
映画などでは、以前から結末が数パターンあり、
上映日によって変更される、というものが存在しました。
ゲームでいえば、マルチエンディングのようなものです。
これを、活字で表現したらどうなるか?
このテーマが私のチャレンジャー精神を燃え上がらせたのです。

今回の「トラバボケ」参加作品は、オチが3種類あります。
読まれた方が、どのオチに当たるかは、アクセスした日時によって
変わってきます。読むたびに違う話になっている、というケースもあるわけです。
時間帯によっては、再び同じオチが登場してくることもありますが
3種類の他に、シークレット・オチとして1回だけ、ごく短時間のみ登場する
オチも用意してあります。

審査員の方が、どのオチに当たるかで評価は違ってくると思いますが、
トラックバック締切後には、1つのオチで固定する予定です。

あなたは、どのオチに当たるでしょうか?
それでは、どうぞ!

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朝の通勤電車。
トンネル内で電車が止まる。
いつまでたってもアナウンスはない。車掌も説明に来ない。

このあとの展開は !?
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「オチその1」

人生において、暗いトンネルに入り込んでしまった時、
人々は、こう考える。
「今は、暗闇の中だが、いつか必ずトンネルを抜ける日がくる」
その希望が、辛く苦しい日々を生き抜く、たったひとつの
支えとなるのであろう。

通勤電車が、突然トンネルの中で止まってしまった。
アナウンスも車掌の説明もないが、乗客は全員、
「そのうち動き出すだろう」と信じてやまない。

しかし、彼らが乗った電車は、もうこの先へは進まないのだ。
くたびれた背広を着込んだサラリーマンたち。
彼らは、全員、すでに会社をリストラされた者たちだった。
会社へ行く理由が無くなっても、毎朝の習慣は変えることができず
つい電車に乗ってしまった、哀れむべき者たち。

電車が止まったトンネルは、会社への通過点ではない。
このトンネル内が、彼らの終着駅だ。
電車は、これ以上、どこへも進まない。
人生の終着駅となったトンネルの中で、
「まだ動かないのかなあ……」と、
彼らは最期の時を迎えるまで待ち続けるのだ。



「オチその2」



いつまでたっても、電車が動く気配は無い。
俺は、あせっていた。
会社に遅刻しそうだ、というのも深刻な理由ではあるが、
それよりも、さっきからずっと「屁」を我慢しているのだ。
この密閉された満員電車の中で放屁するのは、道徳的に憚られる。
次の駅に着いて、ドアが開いたら人知れず、すぅーっとガス抜き
しようと考えていたのだ。
音を出さずに放屁するテクニックには自信があるのだ。

だが、電車は動かない。
ストップしてから、かれこれ15分にもなろうとしている。
これは、そろそろ我慢の限界かもしれない。
まあ、いいか。道徳なんて。
これだけ人が詰め込まれていたら、犯人が俺だとは、
誰も特定できないだろう。

ああっ、もう、駄目だ……すぅーっ。

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下腹を圧迫する誘惑に、彼は負けてしまった。
緊急事態なのだから、彼を責めるわけにはいかないだろう。
しかし、悲劇は満員電車の乗客全員が、
彼と同じ状況下におかれていたということだった。

その車両は今、アウシュビッツさながらの惨状となっていた。



「オチその3」

おかしい。
明らかに、この状況はおかしい。
この満員の車両内で、電車が動かないことを
気にしているのは、俺1人だけなのだ。

残りの連中は、全員、一心不乱に携帯電話の液晶画面を見つめている。
メールのやり取りをしている者。
ゲームに打ち興じている者。
iモードでネットサーフィンをしている者。
日常的に見られる、異常な光景である。

多くの者が、ときおり首を動かして、真っ暗な窓の外を見るが、
特に気にも留めていない様子で、再び液晶画面へと視線を戻す。

どういうことだ?
さっきから電車は全く動かないんだぞ。
アナウンスもないし、車掌も説明に来ないんだぞ。

……そうか。そういうことか。
彼らが窓の外を見るのは、自分の目的地である駅に
まだ到着していないということだけを確かめているのだ。
携帯電話に打ち興じて、乗り過ごさないようにすること。
そのことだけに注意して、残りの神経はすべて
液晶画面に集中させているのだ。
電車が止まっているという状況に気付いていないというわけだ。

おそらく、時間の経過に対する感覚も麻痺しているのだろう。
普段、携帯電話を持ち歩かない俺にとっては理解しがたいことだが
彼らにとっては、携帯電話によるライフスタイルの支配が、
当たり前のことなのか。

言い知れぬ孤独感に襲われた俺は、彼らに惑わされず、
自分なりにこの状況と向き合うことに決めた。

ポケットから取り出したのはGBA。
昨日購入した「ファイナルファンタジーⅠ・Ⅱアドバンス」だ。
これで、彼らと同じように別の時間の流れの中に身を投じることが
できるかもしれない。





そして、ⅠもⅡもエンディングを迎えた今も、
電車はまだ動き出していない。




「シークレットオチ」

全く電車は動かない。
さっきからもう1時間近く、トンネルの中で立ち往生したままだ。
アナウンスも車掌の説明もないので、状況の把握もままならぬ。
「私が先頭車両の様子を見てきましょうか?」
「うむ。そうしてくれるか」
「では、早速行ってまいります」
そう言って、佐伯大尉は隣りの車両へと向かった。
あとに残された、山下奉文陸軍大将は、
「ヒットラーもスターリンも信用できん」
とつぶやいた。
ついさっきまで丸の内線銀座~東京間を走っていた電車は、
突如として、満州へと向かうシベリア超特急に変貌していた。



「さらに激短ミステリィだけで読める5つ目のオチ」

トンネル内、そして電車内という二重の密室。
そこに閉じ込められる不安感や恐怖を、読者によりリアルに
味わってもらうのには、どうしたらいいだろう?

やはり、「体感」か。
小説の付録として、実物大の電車のペーパークラフトをつける。
もちろん、他の乗客も紙のフィギュアで用意する。
読者は電車を組み立て、その中に入って、
つり革につかまりながら、物語を読む。

隣りの中年サラリーマンからは、ポマードの匂いが。
目の前に座るOLからは香水のきつい匂いがする。
もちろん、紙に香料をしみこませておくのだ。

これでいいだろう。
読書環境までをもコントロールする上清水一三六。
私はやはり、文壇の革命児なのかもしれない。





もはや誰にも止められない上清水先生の暴走!
正直、旧知の仲の私としても、そろそろ縁を切りたいところである。
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by osarudon1 | 2004-07-16 21:28