第74話・張井呆太と金欠の王子



今回の事件の依頼者は、ヨーロッパの某所に
ひっそりと存在する魔法王国の王子だった。

観光のため、お忍びで来日していたこの王子は、
しばらく軽井沢のペンションに滞在していたのだが、
そこで殺人事件に巻き込まれてしまったのだ。

殺されたのは、同行していたボディガードの男。
犯人はペンションの滞在客で間違い無さそうなのだが、
どうにも証拠がなく、特定することができない。

そこで王子は、魔法探偵・張井呆太に真犯人解明の
依頼をしたというわけだ。

「問題は動機ですね。いくらお忍び来日とはいえ、
 身分の高い者であることは勘付かれると思います。
 おそらく金品目当てで、まず邪魔なボディガードを
 殺害したのではないでしょうか?」
「張井さん、それはあり得ません。なにしろ私たちは
 日本に来てから金を使い果たしてしまい、ペンションで
 アルバイトをしていたのですよ。客ではないんです。
 私たち、従業員だったんです」
「そうでしたか」
「張井さんにお願いしたのも、報酬にこだわらない、という
 魔法界での評判を耳にしたからなんですよ」
「……この金欠野郎が」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、何でもありません。しかしあなたは運がいい。
 実は私、どんな犯人をも暴き立てる新しい魔法を
 習得したばかりなのですよ」
「おお、それは心強い! さっそくお願いします」

というわけで、ここは軽井沢のペンション。
食堂に事件関係者が全員集合していた。

「さて、みなさん。この中に真犯人がいることは
 わかっています。それが誰であるかは、まもなく
 明らかになるでしょう」

張井が習得した魔法とは、手のひらから放たれる光の矢が、
真犯人の胸に向かって一直線に飛んでいく、というものだ。
探偵としては最強の魔法。
ほとんど、ろくな魔法が使えなかった張井だが、
この魔法だけは奇跡的に完全習得できたのである。

ついに、張井が魔法で事件を解決する時がやってきた!

「さあ、光の矢が貫くのは誰の胸でしょうか? いくぞ!」

張井は目を閉じ、呪文を唱え始めた。

その時だった。

「わあああ、すいませんすいません。私が悪う御座いました。
 殺したのは私です。私がやったんですぅ!」

ペンションの客の1人である、若い女性がそう叫びながら
崩れ落ちた。

「いや、あの、まだ呪文唱え終わってないんですけど……」
「私ですぅ。すいませんすいませんすいません」
「呪文終わるまで、待っててもらえますかねぇ」
「素直にお縄を頂戴いたしますぅ」

見守っていた地元の刑事が動いた。
「おい、連行しろ」

慌てたのは張井だ。
「ちょちょちょっと、待ってよ。まだ魔法を使ってないんだけど」
「さすがです、張井さん。犯人もかなわないとみて自白したんで
 しょう」
「いや、これからちゃんと魔法を使って……」
「一件落着ですね、張井さん」
依頼人の王子も満足げに微笑んだ。
「う、う、う、うわあああああああああ!」

この時、張井の中で何かが壊れた。

初めて魔法探偵として魔法を使って事件を解決するチャンスを
失ってしまった、哀れな張井呆太。

数日後、張井は探偵事務所をたたんで、故郷の山形へ帰った。
今では家業の酒屋を継いでいると、風の噂で耳にした。
さらば、張井呆太。
僕たちは君のことを永遠に忘れない。
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by osarudon1 | 2004-07-28 16:20