第85話・女と絵画のミステリィ



人気推理作家の青薔薇かをる氏が、
記者会見会場へと向かう途中で、背後から
襲い掛かってきた暴漢に後頭部を殴られ、
死亡した。
財布等の入ったセカンドバッグが奪われている
ことから、物取りの犯行と見られる。

この日予定されていた記者会見は、
氏の人気シリーズ「女と絵画のミステリィ」の
10作目にして完結編となる次回作の
タイトルを発表するものだった。
ハリー・ポッターシリーズなどでも、執筆前に
次回作タイトルが発表されるが、青薔薇氏の
作品も同様で、「次はどの画家がモチーフに
なるのか?」が、いつも注目されていた。

これまでに刊行された9作のタイトルは以下の通り。
「明子とルノアール」
「陽子とピカソ」
「富美子とゴーギャン」
「貴子とゴッホ」
「芳子とベラスケス」
「恵子とモネ」
「律子とロートレック」
「雅子とルソー」
「由紀子とミケランジェロ」

いずれも大ベストセラーを記録している。
今回、記者発表会前に青薔薇氏が急逝し、
新作タイトルは氏本人以外は誰にも知らなかったため、
当然、発表会は中止となった。

しかし。

襲われて虫の息だった青薔薇氏を発見した通行人が、
氏がつぶやくように口にした言葉を覚えていた。

「秀子とシャガール」

これをかぎつけたマスコミが、スクープとして発表。
とたんに女と絵画のミステリィ・幻の完結編タイトルとして、
世間を騒がせることになった。

青薔薇氏は、いつも次回作タイトルを発表してから
執筆に取り掛かるため、残念ながら遺稿のたぐいは
残されていない。
だが、ファンの熱望により、青薔薇氏の遺志を継いで、
氏と親交が深かった作家に完結編を代筆してもらおうという
計画が持ち上がった。

生前の青薔薇氏と最も親しくしていたのは、
同じく推理作家の上清水一三六氏。
上清水氏のもとに、出版社から「秀子とシャガール」の
執筆が打診された。

「私が書くのですか? 光栄なことですな。しかし、
『秀子とシャガール』というタイトルになったのは、
 ちょっと意外です。以前、酒の席で青薔薇くんが、
 私に言ったのです。まだ正式決定ではないが、
 最後の作品タイトルは「花子とダリ」を考えている、
 とね。気が変わったのかなあ?」

数か月後、上清水一三六による「秀子とシャガール」が
無事出版された。
皮肉にも、上清水のいかなる作品よりも売れ行きは
好調だった。
「まあ、天国の青薔薇くんも喜んでくれることでしょう」

* * * * * * *

ここは天国。
下界での新作騒動を雲の上から見ていた青薔薇氏は、
喜ぶどころか激怒していた。

「なんだ、『秀子とシャガール』ってのは!?
 最後の作品タイトルは『花子とダリ』だったのに。
 みんなでよってたかって、でたらめなタイトルの
 作品をでっちあげやがって! 上清水のバカも
 調子に乗って俺の人気シリーズを台無しにしてくれた」

青薔薇氏は絶叫した。














「ひでぇことしやがる!」
[PR]
by osarudon1 | 2004-08-12 12:41