第86話・〝神の視点〟



窓がひとつもなく、ドアは内側から
しっかりと施錠されている部屋。
つまり、密室。

部屋の中では、2人の男が口論している。
その側には、心臓から血を流した、
もう1人の男の死体が転がっている。
凶器とおぼしきものは、どこにも見当たらない。

「山田! お前が佐藤を殺したのか?!」
「俺じゃねえ! 目が覚めたら、もう佐藤は
 死んでたんだ」
「俺だって、気が付いた時に死体を発見して
 驚いたんだぞ! お前、俺と一緒に目覚めた
 ふりして、実はずっと起きていたんだろ?」
「お前こそ、佐藤を殺したんじゃないのか、鈴木?
 みんなで乾杯したグラスに睡眠薬を入れたのも
 お前だろ? お前のグラスにだけ薬は入って
 なかったに違いない!」
「それはこっちのセリフだ、山田。今夜のパーティーも
 お前がみんなに誘いをかけたんじゃないか。最初から
 佐藤を殺すつもりだったんだろう!」
「確かに俺が誘ったが、それは言いがかりだ。この機に
 乗じて佐藤を殺したのは鈴木、お前にほかならない。
 ドアには内側からカギをかけてあるんだから、外からは
 誰も入って来られないはずだ」
「この人殺しが! 俺に罪をかぶせる気か?!」

いまにもこの2人で殺し合いになりそうな剣幕である。

「とにかく俺はやってない」
「どこまでもとぼけるんだな、鈴木? じゃあ、佐藤は
 自殺したとでもいうのか?」
「自殺だってぇ? なら、凶器はどこにあるんだよ?
 自分で胸を刺して、ドアから外へ放り投げて、
 カギを閉めなおしてから絶命したのか、佐藤は?」
「あり得ない話じゃないぞ」
「刃物が傷口に刺さったままならともかく、ドアから
 放り投げた後なら、血が噴き出したはずだ。しかし、
 佐藤の死体の周りにしか血は流れていない。ドアから
 死体までの床が、こんなにキレイなのはおかしい」
「では自殺説は却下ということだな。ならばやはり、
 鈴木、お前が犯人だ!」
「山田! もう許さんぞ!」

鈴木が、山田の顔面にパンチを食らわせた。
山田は壁際まで吹っ飛んだ。

「何をするんだ、鈴木! 俺まで殺すつもりか!」
「うるせえ、この人殺し! こっちこそ、みすみす
 殺されるのはまっぴらだ!」

お互い、猛烈な殴り合いとなった。
K-1の試合でも、ここまでの迫力はない。
しかし、このままでは本当に、どちらかが
2人目の死体になってしまいそうだった。

しかたがない。









「おいおい、2人とももうやめろよ。
 俺だよ、佐藤を殺したのは」
私は血の付いた登山ナイフをちらつかせた。

「なんだ、高橋。お前、いたのか?」
「お前、相変わらず影が薄いなあ」
[PR]
by osarudon1 | 2004-08-12 13:30