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by osarudon1

第163話・『勝者は、ただ1人。』(再録シリーズ・4)



その福袋は限定1個限り。
ここに並んでいる行列の中の、たった1人だけが手にすることができる。

1個だけなら、先頭に並ばなければ意味はないのかというと、
そういうわけではない。
普通なら抽選なのだろうが、この福袋に関しては、
独自の争奪ルールが設けられていた。

それは、トーナメント戦。
初日、2日目と予選を勝ち抜いて、3日目の決勝で頂点に立った者が、
その福袋を貰えるというものだ。

トーナメント戦の内容は、いたってシンプル。殺し合いである。

勝ち抜く自信はあった。
俺はプロの殺し屋。実績ではデューク東郷と肩を並べるほどだ。


1回戦の相手は、迷彩服に身を包んだ傭兵風の男。
幾多の戦場をくぐり抜けてきたであろうことは、
その隙の無い身のこなしからわかる。
だが、こいつとて俺の敵ではない。
戦争というものは、相手を殺すことが第一目的ではないのだ。
1対1、サシで向き合った場合には、俺の方が確実に上だ。

俺は一瞬で奴の背後に回り、目にも止まらぬスピードで、
その喉笛を掻き切った。
まず、1勝。

2回戦で俺と殺しあう運命になったのは、見るからに
鉄砲玉といった風情のちんぴらヤクザ。
こいつが、実に弱い。
どうして1回戦を突破できたのが不思議だったが、
どうやらいきなり相手の顔面に頭突きを食らわせたらしい。
相手は俺もよく知っている凄腕の同業者だったが、
そいつの専門は毒殺。
・・・・・・それではちんぴら相手でも勝てんわな。

とはいえ、ヤクザの戦法など、俺には通用しない。
ゴングが鳴った1秒後には、ちんぴらの死体が、
俺の目の前に転がった。

これで2日間が終了。
いよいよ3日目は決勝戦だ。


決勝の相手は、今大会の優勝候補筆頭。
この業界じゃ、知らぬ者はいない凄腕の殺し屋、キラー綺羅星だ。
あらゆる武器を使いこなし、格闘術もK-1チャンプ級。
瞬時の判断力も抜群で、超高性能暗殺機械と異名を取る男。
さすがの俺も、100%勝てるという保証はなかった。

ゴングが鳴った。

お互い、じっとにらみ合い、微動だにしない。
こういうときは先に動いた方が負けると相場が決まっている。

忍耐勝負だ。

時間だけが刻々と過ぎていく。

・・・・・・打開策が浮かばない。
どう仕掛けても、カウンターでやられてしまいそうな気がする。

しかたがない。切り札を出すときが来たようだ。
危険を承知で、こちらから仕掛けていこう。

俺は、キラー綺羅星の背後を指さして叫んだ。
「あっ、チェ・ジウ!」

・・・・・・。
・・・・・・。
失敗した。

俺が叫んだ瞬間、奴の体がハヤブサのように動いた。
鋭いキックが、俺の股間めがけて襲い掛かった。

ぐえっ。

俺の急所を、声も出せないほどの衝撃が貫いた。

その時だった。

「ピッ、ピィーッ!」

審判のホイッスルだ。

「今の、金的入りました。キラー綺羅星選手、反則負け!」

なんだ、そのルールは?
なんでもありの殺し合いとはいえ、やはり急所攻撃は反則だったとは!

ともあれ、俺は情けない勝ち方ながら優勝した。

股間の激痛をこらえながら、優勝賞品の福袋を受け取る。

このために、3日間のバトルを戦い抜いてきたのだ。
俺は、痛みの辛さと感無量の想いが混ざった涙を流した。

そして、福袋を開ける。

中に入っていた紙には、こう書かれていた。

『ターゲット:B国大統領 成功報酬:1億ドル』

・・・久々の大きな仕事だ。

最近は殺し屋業界も不況のあおりを受け、ロクに仕事が回ってこない。
こんないいギャラの殺しなんて、福袋をゲットしなきゃ無理なのだ。

今より一層、腕を磨いて、また来年も3日間並ぶぜ!
by osarudon1 | 2005-09-09 17:27