第208話・富嶽三十六景連続殺人事件



上清水先生から電話がかかってきた。

「最近、東海道五十三次をモチーフにした、
 猟奇的連続殺人事件があったじゃないか」

「ありましたね。それが何か?」

「これだ! と思ったね、私は」

「ああ、小説化しようってわけですね」

「いや、まあそうなんだが、そのまま書いても
 つまらないだろう。だから、ちょっとアレンジを
 しようかと思ってね。これがいいアイデアなのだ」

「一応、聞いておきましょう」

「タイトルは『富嶽三十六景連続殺人事件』だ。
 東海道が広重なら、こっちは葛飾北斎でいく」

「で?」

「犯人は、北斎の『富嶽三十六景』が36枚だと思い、
 Tシャツの枚数をそれだけしか用意していなかった。
 ところが浮世絵は実際には46枚あるのだな」

「人気に乗じて10枚追加されたんですよね」

「よく知ってるじゃないか」

「以前、絵画ミステリィの大家・青薔薇かをる先生を
 担当していたものですから」

「青薔薇か……懐かしいな。今ごろ誰に取り憑いている
 のだろう? まあ、それはさておいて。Tシャツが
 10枚足りないことから犯行に綻びが出る、という
 ストーリーなのだ」

「東海道の事件そのまんまじゃないですか」

「しかし、この物語には、さらなるドンデン返しが
 用意されているのだ。私はミステリィ界随一の
 ドンデンガエッシャーと呼ばれているからね」

「誰も呼んでません」

「ドンデンガエシストだったかな」

「それも呼んでません」

「ドンガラガッシャンだったかも」

「それはもういいですから、オチを聞かせてくださいよ」

「実は、足りないのは10枚どころではなかったのだ。
 最初から36枚では余りにも少なすぎた」

「何枚足りなかったのですか」

「ひと桁違う。100枚だよ、100枚」

「そりゃひどい」

「浮世絵は136枚あったのだ」

「嫌な予感が」

「しかも、『富嶽三十六景』ではなくて、本当は
 『上清水一三六景』だったのだドンガラガッシャン」

「そんな絵は存在しません」

「するよ。私が描いたのさ。ほら、これを見たまえ」

「なんですか、このスケッチブックいっぱいの汚れは」

「失敬な。136枚、私が精魂込めて描いたのだ。
 この絵なんか最高だろう? 私が三保の松原で
 天女の羽衣を手に取っている絵だよ。北斎も
 これくらい絵心があればいい絵師だったのにな」

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「はいはい。で、この大量の落書きをどうするんです?」

「売るに決まってるだろう! シルクスクリーンで、
 1点20万円ぐらいで。これは儲かるぞ。入江くんにも
 回転寿司くらいおごってやるぞ」

「誰も買いません」

「ならば、永谷園にでも売り込んで、お茶漬け海苔の
 オマケのカードとして採用してもらおうかな」

「もらおうかな、じゃねぇよ!」

入江くんの三重ノ海を彷彿とさせる猫だましが炸裂し、
上清水は簡単に尻もちをついた。

~THE END~
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by osarudon1 | 2007-02-08 21:05