第212話・御霊よ、安らかに眠れ




S県S市S区の、小高い丘の上に経つ「忠霊塔」。
戦没者を供養するためにたてられたものである。

もう日付が変わろうかという真夜中に、
この忠霊塔の周りに数人の男たちが集まっていた。

「くそっ、奴ら感づいて取引場所を変更したのか?」

「そうでなければ、俺たちが到着するのが遅かった
 のかもしれない」

「どっちにしたって、失敗だ。こっちは仲間を1人、
 失ってしまったっていうのに……奴の死は、全く
 犬死だったってことか」

「菊池、そういう言い方をしたら奴がかわいそうだ」

彼らは、偶然仕入れた情報から、今夜この町で
コカインの取引が行われることを知り、当事者の
地元暴力団と中国マフィアを出し抜いて、その
コカインをまんまといただいてしまおう、と
計画していた若いアウトロー集団だった。
誰がリーダーということもなく、自発的につるんでいる
集団だったが、一応、今回のヤマは、菊池と呼ばれた
男が仕切っていた。

具体的な取引場所がつかめなかったため、港にある
暴力団のアジトに仲間の1人を潜入させ、なんとか
場所を突き止めようとしたのだが……。

「レオを1人で行かせたのが失敗だった」

「自分を責めるな、菊池。大勢では気づかれる。だから
 最初は1人で行かせ、万一のときには俺たちがヘルプに
 駆けつける、という計画は正しかったさ」

「だが、結局、間に合わなかった。レオは……死んだ」

潜入したのは、仲間内で一番若い、まだ十代の男。
本名は誰も知らないが、仲間内ではそいつが俳優の
レオナルド・ディカプリオに似ていたため、
「レオ」と呼ばれていた。
菊池の携帯に、彼からの無言の電話がかかってきてすぐ、
全員でアジトへ駆けつけたのだが、時すでに遅し。
アジトである港の倉庫には、胸から血を流して
倒れているレオのほかには、ねずみ1匹、いなかった。

その時点では、まだレオはかすかに息があり、
最期の力を振り絞って、菊池たちに何かを伝えようとした。

「……忠霊塔……」

レオは命と引き換えに、取引場所の情報をつかんだのだ、
と菊池たちは解釈し、ほどなく息を引き取ったレオを
断腸の思いでその場に残し、急いでこの丘の上にある
忠霊塔へとやって来たのだった。

が、そこには暴力団も中国マフィアもいない。

「ここじゃなかったのか、取引場所は……」

「もう取引が終わった後かもしれない」

「遅かったか……すまん、レオ……間に合わなかった…」

「レオの救出にも間に合わなかったしな……ん?」

「どうした?」

「間に合わなかった……遅すぎた……そういうことか」

菊池はがっくりとうなだれた。

「どうした、菊池? 何か気づいたことがあるのか?」

「レオはふだん、日本語ペラペラだから考えもしなかったが、
 やっぱり意識が薄れている死に際には英語をしゃべるんだな」

「英語?……ああっ!ちくしょう!俺たちが馬鹿だった!」

結局、ここでも失敗に気づくのが遅すぎたのであった。


~THE END~
[PR]
by osarudon1 | 2007-02-16 20:45